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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和24年(控)721号 判決

被告人

笹島茂雄

外三名

主文

本件控訴は何れも之を棄却する。

理由

被告人西川淸、太田淸、馬潤源五郞、弁護人関山淸控訴趣意

被告人西川淸関係

(イ)  第一点 原判決ハ被告人ニ対シ臨時物資需給調整法違反罪トシ同法第一条第四条指定生産資材割当規則第八条、第九条ニ該当スルモノトシテ処罰セラレタルモ本件ノ綿糸ハ元来証人島光重ノ供述ノ如ク証人等ガ製網会社ヨリ窃取シタル賍物ニシテ賍品タル情ヲ知ラザル相被告人笹島茂雄ヨリ買受ケタルモノナリサレバ絶対ニ(配給機関ニ提供セザル限リハ)割当証明書ノ添付サルルモノデナイ、カカル割当証明書ノナイ品ガ売買ニヨリ転々ト移転サレクノガ本件デアリマシテ配給機関ガ綿糸配給ニ当リ割当証明書ヲ得ズシテ引渡シタ場合ト異ナツテ居マス。本件ノ如キ場合ニハ指定生産資材割当規則第十四条ノ特殊ノ規定ガアリマス。

綿糸讓渡讓受ノ対価ヲ判決上ニ明示セザルカ又ハ公定価格以下ノ対価ヲ記載セル場合ハ格別然ラザル限リ右取引ハ臨時物資需給調整法ニヨルベキカ又ハ物価統制令ニ問擬スベキヤ決定スルコトヲ得ズ原審ハ此点ヲ看過シタルハ審理不尽ト思料ス法令ノ適用ヲ誤リタル違法ノ判決ナリト信ズ。と謂うのであるが、

指定生産資材割当規則第八条、第九条に依れば、指定生産資材は右各条所定の場合を除き何人も之を讓渡し、又は讓受けてはならないのであつて、指定生産資材たる当該物品が賍物であるや否や、又は讓渡人、讓受人がその賍物たることを知つて居たか否かと謂うことは右各条違反の成否に何等の関係がない。次に指定生産資材割当規則第十四条には「指定生産資材の取引については物価の統制に関する他の法令の規定を適用する。前項の法令に違反し為された行為に対しては臨時物資需給調整法の罰則は之を適用しない」とあるけれども、右は指定生産資材割当規則の全文を精讀しその趣旨に徴すれば、同規則第十二条に於て生産者又は販売業者は需要者割当証明書又は販売業者割当証明書と引換に且つ当該指定生産資材の生産業者統制額又は販売業者統制額を以て指定生産資材の讓受の申込があつたときは、当該指定生産資材を所持しない場合その他正当の事由があるのでなければ、之を拒んではならないと規定し、元来価格統制のあるものの取引については、物価の統制に関する法令に従うべきことは当然であるに拘らず、右のように本則に於て特に統制額に依るべき旨を規定した結果、本則の取引に於て統制額を超過し価格違反があつた場合に本則に定める右「統制額に依るべき旨」の規定に違反するものとして臨時物資需給調整法の罰則を適用すべきか、或は物価の統制に関する罰則に依るべきかの疑いを生ずるもので、右第十四条に於て統制額超過の点については物価の統制に関する他の法令の規定を適用し臨時物資需給調整法の罰則を適用しない旨を明かにしたものと解すべきである。従つて本件原判示のように指定生産資材割当規則第八条又は第九条に違反し法定の需要者割当証明書又は販売業者割当証明書の記載するところに従い之と引換えることなくして指定生産資材を讓渡又は讓受けた場合には、その行為は当然本則の違反として臨時物資需給調整法の罰則の適用を見るべきものであつて、縦令その讓渡、讓受に際し、当該物品の統制額を超える対価を契約し、又は之を支払い受領したとしても、右第八条又は第九条に違反した讓渡、讓受行為に対する臨時物資需給調整法の罰則の適用を排除するものではない。即ち本件に於て原判示の売渡し又は買受行為が本件物品の統制額を超過し物価の統制に関する法令に違反するものがあるとすれば、その点は右本則第八条又は第九条違反の点と刑法第五十四条第一項前段の場合に該るものであるから、原審が本件につき臨時物資需給調整法の罰則のみを適用処断したことを以て判決に影響を及ぼすべき不当の措置として之を破棄しなければならないと謂うことはできない。論旨は理由がない。

(ロ)  被告人馬淵源五郞、弁護人小室薰控訴趣意第二点は

臨時物資需給調整法違反罪ヲ構成スベキ指定生産資材ノ何タルヤハ同割当規則第一条及び別表第一ニ依リテ始メテ特定セラルベキモノナルトコロ原判決ハ判示擬律ニ於テ右規則第一条ヲ適用セザル違法アリ(後略)

と謂うのであるが、

原判決が、本件につき証拠に基き「指定生産資材たる綿糸であることを認定説示してある以上指定生産資材割当規則第一条を判決に摘示しなかつたとしても違法ではない」(後略)

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